死刑確定の京アニ事件 執行できるか?今後の展開は #専門家のまとめ(前田恒彦) – エキスパート – Yahoo!ニュース

前田恒彦元特捜部主任検事

(写真:ロイター/アフロ)

京都アニメーション放火殺人事件を巡り、一審で死刑判決を受けた男が自ら控訴を取り下げました。弁護側がその有効性を争うことも考えられますが、男の真意に基づく行動だったのであれば、死刑が確定し、もはや控訴や上告は許されません。重度のやけどを負って車椅子から立てない男に死刑の執行ができるのかという問題を含め、今後の展開について理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「1審判決直後には、京アニや裁判への不満を口にしていた」「取り下げの理由は明らかになっておらず、関係者は複雑な思い」

出典:読売新聞オンライン 2025/1/28(火)

「取り下げの有効性を弁護人が争い、1審判決から死刑確定まで2年半以上を要したケースもある」

出典:毎日新聞 2025/1/28(火)

「自ら控訴取下げをしていたとしても、再審の請求は可能」「死刑の執行を少しでも先延ばしにすることはできる」

出典:Yahoo!ニュース エキスパート 前田恒彦 2019/5/24(金)

「踏板の大きさやロープの長さなどから、刑場は死刑囚が立ったままでないと、執行が難しい構造になっている」

出典:現代ビジネス 2024/2/9(金)

エキスパートの補足・見解

一審の判決では男の完全責任能力が認定されたものの、弁護人はこれを争っていました。そこで、男には取り下げの意味を理解できる能力などなく、取り下げは無効だと主張することが考えられます。こうした場合、取り下げの法的効果、すなわち直ちに死刑判決が確定し、自らの生命に対するリスクが生じる上、執行時期が早まる可能性まであることを男が十分に認識できていたか否かがポイントになります。これがクリアされ、有効な取り下げだったとして死刑判決の確定が認められた場合、次に死刑を執行できるのかという問題が生じます。この点については、過去にも車いす生活を送る高齢の死刑囚が刑務官に支えられて立たされ、執行された例があるようです。刑務官の負担は大きいでしょうが、男が心神喪失でない限り、執行自体は可能です。

なお、懲役や禁錮の場合、余命がわずかであるなど刑の執行によって生命を保てないおそれがあれば、執行を停止することができます。死刑にはこの制度がないので、重病などで事実上執行できない状態が続けば、そのまま拘置所で獄死するか、ぎりぎりになって病院に移され、そこで死亡することになります。現にそうした死刑囚も数多くいます。(了)

前田恒彦

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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