中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)はわずか1日の取引で、AIの電力需要ブームを前提とした米電力市場の過去1年にわたる活況を覆した。
AIのエネルギー需要が拡大するとの見方から、オープンAIやアルファベット、マイクロソフトなどの企業は、閉鎖されていた原子力発電所といった新たな電力源を模索していた。こうした企業の野心的な気候変動目標も複雑になった。ディープシークのモデルはより効率的で、わずかなエネルギー使用で同じ結果を達成できるとみられており、AIが気候に与える影響は想定より小さいことを意味するかもしれない。
ジェフリーズのアナリスト、ジュリアン・デュムラン・スミス氏は、ディープシークの開発について「米国で予想されている著しい電力需要に疑問を投げかける」と27日のリポートで指摘した。大半の予測では、2035年までの米電力需要全体のうち、約75%をAIが占めているという。
27日の株価下落は、「どれだけ多くのデータセンター案件が成立し得るのか」との見方に基づいたものだと同氏はインタビューで述べた。市場は今、そうした案件がまとまる時期や頻度を疑問視しており、それは電力株の年初来20%上昇が突如終了したことに反映されているという。発電事業を展開するビストラは同日に28%、電力会社コンステレーション・エナジーは21%それぞれ下げた。
先週には、トランプ米大統領が世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でオンライン演説し、国家エネルギー非常事態宣言を活用して、データセンターに隣接する化石燃料発電所の建設を急ピッチで進める考えを示したばかりだ。
AIの電力需要予測は、ディープシークが今週冷や水を浴びせる前から、既に高過ぎたと考える専門家もいる。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の環境経済学教授スティーブン・ジャービス氏は、「巨大な」予測は、現実というよりも、送電網インフラへの投資を増やしたいという電力会社の願望を反映していると説明した。
クリーンエネルギーのシンクタンク、エナジー・イノベーションのシニア特別研究員、エリック・ギモン氏は「まるでチューリップ・バブルの始まりのようだった」と17世紀にオランダで起きた熱狂になぞらえた。その上で、これまでのデータセンター建設急増で効率化が進んでおり、エネルギーの伸びは鈍化していると続けた。
とはいえ、ディープシークがAIの電力消費を押し下げることはできても、この業界は電力を必要とし続けるだろう。AIによるニーズがやや不確実になったとはいえ、家庭や工場での電力使用は増えるため、電力需要はまだ伸びると、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の公共事業アナリスト、ニッキー・シュー氏は分析した。
大手テクノロジー企業は、データセンターを24時間稼働させるためにクリーンな電力を模索してきた。特に原子力エネルギー市場は好調だ。主な例としては、マイクロソフトがスリーマイル島原発再稼働に向けコンステレーションと昨年結んだ契約や、メタ・プラットフォームズが自社のデータセンターの電力源として最大4ギガワット(数百万世帯分の電力に相当)の新たな原子力エネルギー確保を目指していると発表したことなどが挙げられる。
こうした動きは、気候変動目標を達成できていないことへの対応策でもある。マイクロソフトの昨年の二酸化炭素排出量は2020年比で30%増加したほか、グーグルでは2019年比で48%増えた。
ディープシークはAIの二酸化炭素排出量を削減する道筋を示すはずだ。しかし、同社のテクノロジーが気候に与え得る影響については多くの疑問が残ると、BIのシュー氏は注意を促した。「そのチップが本当に効率的なのか誰にも分からない。多くの懸念があるようだ」と続けた。
原題:DeepSeek’s AI Model Throws White-Hot US Power Market Into Chaos(抜粋)