元タレントの中居正広氏と女性の間で性的な問題が起きたとする週刊文春などの報道に端を発した事案で、フジテレビの社長らが辞任した。
幾層もの疑問点がある。中居氏の問題は、どのような性質のものだったのか。同社幹部社員は何らかの関与をしたのか。出来事を把握した後のフジの対応は適切だったか。
会見で、辞任した港浩一社長は、女性の「人権侵害が行われた可能性がある事案」と認めた。中居氏の番組打ち切りを検討したとしながら実際は約1年半続けたことについて、女性の体調を悪化させる「刺激」になると恐れた、と説明した。誰にも知られず仕事に復帰したいという意思を重視したという。
その上で、社内のコンプライアンス推進室に相談するなど、違う対処もあったのではないか、と反省を述べた。
女性の体調を優先するのは当然だ。だがそれが、人権侵害の可能性がある問題に対して積極的には動かない理由になってはならない。こうした問題を、誰にも知られたくないと考えるのは無理もないことだ。それでも働き続けられるように守る手段は、大ごとにしない、ではないはずだ。
疑問は、背景の企業風土にも及ぶ。タレントなどの接待に女性を利用する慣習がなかったか。上層部が自らそうしたり看過したりしていなかったか。上層部の人事は、長年影響力を持ち続ける取締役相談役、日枝久氏の采配の下にあるのではないか。
会見では、日枝氏がその場におらず留任することへの質問が相次いだ。遠藤龍之介副会長は、第三者委員会の調査結果が出る時期を一つの区切りに、すべての常勤役員が「それぞれの責任を取るべきだ」と述べるにとどめた。
辞任した嘉納修治会長は社風を尋ねられて「自由」を挙げ、それにより「コンプライアンスがおざなりになっていた」「世の中の動きからずれていた」と語った。もともと問題だったことが、時代の変化によって、ようやくそう認識されるようになっただけだろう。事態の重みを受け止められず対応が後手に回った一因に、年齢層の高い男性が大部分を占める上層部の同質性が影響しなかったか。さらなる刷新が必要だ。
多くの疑問は会見を経ても残ったままだ。何が起きたのか。どんな対応があり得たのか。第三者委とフジ自身が正面から検証してもらいたい。
上層部の同質性や人権への鈍感さがないかどうか。政界や他の企業にとってもひとごとではない。自らを省みる機会にもしたい。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません