●リバプールのCL決勝トーナメント進出が確定
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第7節、リバプール対リールが現地時間21日に行われ、2-1でホームチームが勝利を収めた。遠藤航はCL第6節終了時点で、わずか2分の出場に留まっていたが、この試合では63分から出場。彼が比較的早い時間帯から出場したのには、アルネ・スロット監督に明確な意図があったからだ。(文:安洋一郎)
【動画】遠藤航が活躍!リバプールvsリール ハイライト
今のリバプールで遠藤航ほど「縁の下の力持ち」という言葉が似合う選手はいないかもしれない。
チームという組織で見れば、当然ながら主将のフィルジル・ファン・ダイクやエースのモハメド・サラー、昨シーズンに遠藤が主に出場していたアンカーのレギュラーに定着したライアン・フラーフェンベルフらの方が重要な選手だ。
ただ、日本代表MFにもチームにおける明確な「役割」がある。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第7節リール戦は、彼の存在意義がハッキリと表れた試合だった。
●現在の遠藤航の序列は?
今シーズンからリバプールを率いるアルネ・スロットは基本的に選手を固定して運用するタイプの監督だ。特に中盤はチームのバランスを図る上で生命線であることから、疲労面を度外視すれば入れ替えることを望んでいないように映る。
仮に今節とリーグフェーズ最終節に敗れたとしても、同クラブはストレートで決勝トーナメント進出を決める可能性が高い。それでも指揮官は、中盤の3枚にフラーフェンベルフとカーティス・ジョーンズ、ドミニク・ソボスライを起用した。
現在の中盤の序列はこの3人とアレクシス・マック・アリスターの4枚でローテーションをするのが基本で、12月以降はハーヴェイ・エリオットも怪我からの回復を経てこの位置での出場機会を徐々に増やしている。
2024/25シーズンが半分以上経過した現時点で、遠藤の序列は彼ら5人よりも低い。ターンオーバーを使うケースが多い国内カップ戦では先発から試合に絡んでいるが、プレミアリーグでのプレータイムは56分、CLでも第6節終了時点では2分間の出場に留まっている。
通常の選手であれば、これだけ出場時間が少ない選手は「監督からの信頼を得ていない」と結論づけてしまうかもしれない。ただ、遠藤の場合は少し違う。スロット監督は明確な意図があって日本代表MFを投入している。それは今節リール戦でも同様だった。
●遠藤航を早い時間帯に投入した意図
彼がリール戦でピッチに立ったのは、89分と90+3分から出場していたこれまでのCLの試合とは異なり、1-1の同点で迎えた63分のことだった。
フラーフェンベルフとカーティス・ジョーンズがプレータイム管理の一環で前半のみでベンチに下がると、後半からは彼らに代わってマック・アリスターとエリオットが起用された。
前者はそのままフラーフェンベルフと入れ替わる形で右のボランチに入り、後者がトップ下のポジションに入ったことで、前半に同位置で起用されていたソボスライは一列下がってのプレーとなった。
結論から言うと、この3枚のバランスが悪かった。この3人が中盤のトライアングルを形成したのはこれがスロット体制では最初のことで、特にソボスライの3列目起用がハマっていなかった。
彼は2列目からのプレスバックなど、自慢の走力を活かせる場面での守備貢献度は高いが、62分の失点シーンでも露呈したように、危険なスペースを事前に察知して埋める能力はあまり高くない。
失点シーンでソボスライは、リールに自陣深くをえぐられてからのマイナスのクロスに対してボールウォッチャーとなっており、シュートを放ったハコン・アルナル・ハラルドソンのポジションを事前に確認していなかった。
彼は普段の試合でこの役割を担っていないため、苦戦するのは仕方ない部分もあるだろう。この場面を見たスロット監督はすぐに遠藤を呼んで指示を出し、プレー再開のキックオフ前にハンガリー代表MFとの交代でピッチに投入した。
●遠藤航の投入によって取り戻した「バランス」
ソボスライに備わっていないと言及した「危険なスペースを事前に察知して埋める」ことは、遠藤が秀でている能力だ。マック・アリスターも普段出場している左サイドにポジションを移したことで中盤にバランスが戻ると、日本代表MFは持ち前の「予測力」でピンチの芽を摘んだ。
69分にセンターバックと右サイドバックの間のスペースを素早いカバーで埋めたのは彼の真骨頂とも言えるプレーだろう。
遠藤がピッチに立ってから唯一打たれた85分のシュートシーンも、結果的にブロックをしたのはマック・アリスターだったが、日本代表MFの守備も効果的だった。
彼はジョナサン・デイヴィッドがラストパスを出す前に一瞬だけ首を振ってハラルドソンの位置を確認。このワンアクションを挟むことで相手の次のプレーを予測することができており、素早くシュートコースを消しながらブロックに入ることができた。
サッカー界では、途中出場から流れを変える“切り札“の意味を持つ「ジョーカー」という言葉は攻撃的な選手に使われがちだが、スロット監督からすると遠藤も「ジョーカー」である。
遠藤の投入でチームは失点直後にバランスを取り戻すと、67分にエリオットが決めたゴールが決勝点となり、決勝トーナメント進出を確定させた。
「ワタはいつでも全力を尽くしてくれる」。
1月14日に行われたプレミアリーグ第21節ノッティンガム・フォレスト戦を前の記者会見でスロット監督が口にしたこの言葉通り、今日も遠藤はピッチ上で全力を尽くして勝利に貢献した。
(文:安洋一郎)